一面にイチゴが実る里中さん夫婦のビニールハウス。そのまわりであふれんばかりの元気な声を響かせているのは長男の幹汰くん（5）と長女の華留ちゃん（3）です。すっかり春めいた風に揺れる菜の花に興味津々の様子で、香りを嗅いだり、ちぎって遊んだりといつまで経っても飽きることが無い様子。6カ月になる鈴ちゃんを抱っこする武さんは、その様子を温かく見守ります。

「同じ花を見るにしても、自然に咲いているのと花壇や植物園に植えられているのを見るのとではまったく違います。川を泳いでいる魚と水族館に展示されている魚が違うように。本物を見て、触れて、感じるからこそ育つ感性のようなものがあると思うんです。
将来、子どもたちがそれをどう生かしていくのかはわかりませんが、そういった感性はとても大切だと考えています」と穏やかに語る武さん。

山に川に海。すぐそばにさまざまな自然があふれる川南町は、武さんにとって理想の子育ての場所であるようです。

「遊び盛りの子どもたちが心ゆくまで遊びまわれる」

この町の子育てについて訊ねると、開口一番、「自然がたくさんあって、子どもたちが思いっきり遊び回れることが何より」と話す智子さんにとってもそれは同様で、コロナ禍の1年を経験してあらためてこの町で子育てができて良かったと感じたといいます。

「幹汰も華留も遊びたい盛りなので、家の中でしか遊べなかったり、まわりを気にしながら外で遊んだりする必要がなかったので本当に助かりました。人が多い街中だったら、子どもたちは自由に遊べなかったでしょうし、そんなストレスを抱えた子どもたちを見なくてはならなかったでしょうから」と智子さん。

鈴ちゃんを含め3人が通う保育園も自然に囲まれて、子どもたちが外で走り回れる環境だそうで、そうやって幼少期に自然とたくさん触れ会えていることに武さん、智子さんとも満足しています。

「どうやったら楽しめるのかを工夫するのが面白い」

自然が豊かで、コロナ禍においても周囲にほとんど気を遣うことなく外で遊べるということは、それだけいわゆる田舎であり、不便であるということ。そのあたり、子育てをしていく上で不安はなかったのでしょうか。

「引っ越して来た当初は病院が少ないのが不安だったんですけど、大きな病院もありますし、実際は特に問題はありませんでした。ただ、欲を言うと飲食店がもう少しあるといいですね（笑）
都会に比べたら無いものが多いのは間違いないんですけど、無ければ無いなりに、どうやったら楽しめるのかを考えて工夫するのが面白かったりするんです。休日には公園だったり川だったり、どこかしら外に出かけています。そんなだからか、うちの子どもたちは花や魚が大好きで、一番に目が行ってずっと見ているんです。おもちゃを与えてもすぐに飽きちゃうんですけど」と智子さん。

自然に触れて遊んでいるときが一番テンションが高いというだけあって、幹汰くんと華留ちゃんは道端の草花をおもちゃにして取材中もずっと走り回っていました。

「家族の時間がたくさんある毎日がとても充実しています」

川南町へ移住した里中さん夫婦がいちご農家を始めたのは8年前のこと。すっかり川南の生活にもなじんだ現在、ハウスの広さは当時の2倍になり、農業実習生を2名雇うまでになりました。

「出荷がオフシーズンになる夏場にも苗作りの作業があるので一年中忙しいんですけど、毎日家族で一緒にいられる時間が多い今の生活はとても充実しています」と頬を緩める武さん。

農作業は、家事と子どもの面倒をうまく分担しながら、夫婦二人で行っています。基本的に、家事が智子さんの担当で、遊びに連れて行ったりお風呂に入れたり、子どもたちの面倒を見るのが武さんの担当です。

遊び担当の武さんのもっぱらの趣味はサーフィンで、子どもたちと一緒に町内のビーチに出かけることも多いのだそうです。
「来年はサーフィンをしてみたいと言っています。まだ浜遊び程度しかできていないんですけど（笑）
子どもたちと一緒に遊べる時間がたくさんあって、しかもすぐそばにそのフィールドがあるのがうれしい限りです」と武さん。

さらに、「子どもたちが私たちと一緒に遊んでくれる時間はあっという間に過ぎてしまうでしょうから、それまで家族で思いっきり楽しんでいきたいですね」と夫婦で声を合わせます。

仕事においても子育においても、家族の時間を存分に満喫している里中さん一家。その姿はアフターコロナの時代の、理想の家族の姿なのかもしれません。