平成22年10月、椎葉村に完成した土俵に貴乃花部屋と立浪部屋の若手力士、全国強豪の高校相撲部がやってきました。
でも、「なぜ椎葉に土俵を作ったのか」と疑問に思う人もいるでしょう。
今回、土俵を作るきっかけとなった、しいば土俵開きイベント実行委員会の綾部正哉さん(小崎在住)にお話を聞くことができました。
完成した土俵には、人のつながりや思いがたくさん込められていました。
[土俵づくりのきっかけとなった 貴乃花親方の相撲への思い]
平成22年10月、椎葉村に完成した土俵に貴乃花部屋と立浪部屋の若手力士、全国強豪の高校相撲部がやってきました。<br> <br /> でも、「なぜ椎葉に土俵を作ったのか」と疑問に思う人もいるでしょう。<br> <br /> 今回、土俵を作るきっかけとなった、しいば土俵開きイベント実行委員会の綾部正哉さん(小崎在住)にお話を聞くことができました。<br> <br /> 完成した土俵には、人のつながりや思いがたくさん込められていました。<br />
土俵づくりのきっかけとなった 人と人のつながり
しいば土俵開きイベント実行委員会の綾部正哉さんは、貴乃花部屋おかみの花田景子さん(宮崎市出身)が小学校6年生の時に担任をしていました。景子さんとは、卒業後も、節目節目で相談を受けたり、話をしたりするなどの付き合いが続いていました。
平成22年の同窓会で景子さんと久しぶりに会う機会があり、その際に、「ぜひ、部屋の弟子たちに力士として、日本人として、どんな考えでどんな生き方をしていけばいいのかを話してください」と相談を受けました。綾部さんは、それは願ってもないことだと引き受けることにしました。
しかし、引き受けたものの受け入れやお風呂など不安があったそうです。そこで、景子さんに下調べのため、椎葉に来てもらいました。宿泊所や力士のお風呂をどうするのかなどを検討した結果、平成22年10月22日、貴乃花部屋の椎葉訪問が実現したのです。
土俵づくりのきっかけとなった 貴乃花親方の相撲への思い
貴乃花部屋が椎葉に訪問したときに、綾部さんは貴乃花親方と2人で遅くまで語り合ったそうです。
その内容は、「今後の大相撲がどうあるべきであるか、日本の国技である相撲文化が低迷しているのではないか」というものでした。
その当時、相撲界では不祥事が続き、また、近年、外国人力士によって上位者がしめられるようになっていて、そのことを誰よりも強く残念に思う気持ちを親方が持っていると綾部さんは感じたといいます。
そこで、綾部さんは親方に「低迷する相撲界をどのように立て直すのか」と質問しました。
その質問に親方は、「問題は子ども。子どもが幼少時代から相撲に関心を持てる環境を作らなければならない」と話したそうです。かつて、日本には小中学校、神社にはどこにでも土俵があり、そこで、心と体を鍛えていました。しかし、現在は土俵はずいぶんと無くなってしまいました。そこで、「まず全国に土俵を作りたい。そして、子どもたちに相撲というものに対する興味関心を持ってもらうための活動を、私たちプロの力士、大相撲協会が取り組むべきなんだ」と相撲文化の再生を願う熱い思いを話してくれたそうです。
村民につながった 貴乃花親方の思い
貴乃花親方の相撲への思いに応えようと綾部さんは「平家さくらの森づくり委員会」に相談しました。「はじめ、綾部正哉さんから土俵建設の話しを聞いたときは他人事のように聞いていました」と実行委員会委員長の東成海さん(下椎葉)はあいさつで話しました。
椎葉に土俵を作る。確かに、何でだろうと誰もが耳を疑うかもしれません。しかし、綾部さんから親方の相撲に対する思いを聞き、「できるかできないかじゃない、やる気があるかないかだ」と全国に先駆けて椎葉の地に土俵を作ろうとみんなで立ち上がったのです。
いよいよ動き始めた土俵づくり 平家ゆかりの「厳島神社」
椎葉村に伝わる平家伝説。平家を象徴する厳島神社が椎葉村には建立されています。
建設場所を決めるために2回目の椎葉訪問をした貴乃花親方は、候補地の一つであった厳島神社の境内で「相撲の発祥は神社と深い縁があり、必ず神事と抱き合わせて行うのが相撲なんだ」とひと目でここがいいと決めたそうです。
交通の便利さなども考えたうえで、実行委員会でも厳島神社境内に建設することを目標に動きだしました。
実行委員会の熱意は 行政を動かした
こうして、土俵建設地は決まりましたが、建設費用や維持管理など問題は山積みでした。
そのとき行政が動きました。村長は「住民がこれほど熱を入れて土俵作りに取り組んでいるのだから、行政がただ見ているだけではいけない。村としても観光資源として投資効果が期待できる」と行政による土俵の建設を決断しました。まさに、土俵を作ろうという熱意が、行政に伝わり、村を動かしたのです。
それから、相撲協会の専門技術者の訪問指導を受け土俵作りに取りかかり、貴乃花部屋の椎葉訪問が実現した日から2年の歳月を経て、待望の土俵が完成しました。
土俵開きに向けて
土俵が完成し、実行委員会は土俵開きの準備に取りかかりました。土俵開きイベントを行うには、多くの経費が必要でした。そこで、実行委員会は村民の皆さんにもこのイベントを盛り上げてもらえないかと貴乃花部屋のカレンダー販売や寄付を募りました。実行委員会の熱意がたくさんの人の協力を得て、今回の土俵開きが開催できる事になったのです。
待ちに待ったしいば土俵開き開催 椎葉におすもうさんがやってきた!
10月20日、しいば土俵開きが開催されました。土俵開きには貴乃花部屋、立浪部屋の親方と若手力士を招待し、貴乃花親方の呼びかけに応えて、全国でも屈指の強豪校である埼玉、鳥取、熊本の高校相撲部も参加しました。また、来場者は約600人。会場は相撲ファンで埋め尽くされました。
力士と子どもたちによるふれあい相撲では、2人がかりで押しても、まったく動かない力士の強さに子どもたちは驚いていたようでした。力士と相撲をとった尾向小の尾前慶久郎くんは「とても楽しかった、おすもうさんのお腹はやわらかかったよ」と話し、今回の体験を喜んでいました。
午後には、第1回椎葉交流相撲大会「全国で初となるプロアマ交流戦(相撲部屋力士と学生の団体戦)」が行われました。力士たちの激しくぶつかり合う音や取り組みの迫力に観客は息をのんで見つめていました。
川南町から来場した人は、「取り組みを目の前で見るのは初めて。迫力があるし、力士の体は大きいですね」と話し、また、日向市の人は「高校生がこんなに強いとは驚いた」と話してくれました。
第1回椎葉交流相撲大会は、埼玉県立栄高等学校の優勝で幕を下ろしました。
椎葉交流相撲大会結果
優勝 埼玉県立栄高等学校
準優勝 鳥取城北高等学校
3位貴乃花部屋A
【出場団体】貴乃花部屋・立浪部屋
埼玉県立栄高等学校
鳥取城北高等学校
文徳学園 文徳高等学校
思いはつながり 力となった
最後に綾部さんは、「今日の土俵開きを見ていただいたとおり、このイベントは平家さくらの森づくり委員会としての取り組みではなく、村をあげての取り組みに発展してきました。今後もその方向で取り組んでいきたい。誰かが、個人が、団体が、とかではなく、村ぐるみで、村の再生・活性化を目指して、このイベントをきっかけに、ますます元気のいい椎葉村にしていかなくてはいけない。そういう確信を今日私は固めることができました」と力強く話しました。
綾部さんと花田景子さんのつながりが、貴乃花部屋とのつながりとなり、貴乃花親方の相撲への思いと共鳴し、平家さくらの森づくり委員会、村民へとつながっていった今回の土俵建設と土俵開き。貴乃花親方があいさつで話した「相撲というのはひとつで、ひとつの心でまとまっています」という言葉と同じで、椎葉を良くしたい、活性化したいという村民の思いが一つとなった結果が今回の土俵開きを成功に導いたのではないでしょうか。
郷土を愛する思いは 必ずつながる
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