[自然と共生する農業]
森林からの恵みを活用する農林業
高千穂町、日之影町、五ヶ瀬町、諸塚村、椎葉村からなる高千穂郷・椎葉山地域が、2015年12月、世界農業遺産に認定されました。
世界農業遺産とは、伝統的な農業・農法、また、それらによって育まれた文化や土地景観、生物多様性に富んだ世界的に重要な地域について、その保全と持続的な活用が図られることを目的に、国連食糧農業機関(FAO)が認定するものです。
険しい山々に囲まれた高千穂郷・椎葉山地域の人々は、森林からの恵みを巧みに活用した複合的な農林業システムを築き上げ、その源である森林を大切に保全・管理してきました。その取組が評価され、今回の認定に至ったのです。
現在、世界農業遺産に認定されているのは高千穂郷・椎葉山地域を含め、世界で36地域。国内だけで見ると8地域しかありません。
FAOから「世界のモデルとなる重要な地域」と高く評価される高千穂郷・椎葉山地域。認定された主な農林業と伝統文化は次の通りです。
①日本で唯一継続して行われている焼畑
②森林を保全・管理して行われている木材生産と、その結果として見られる、針葉樹・落葉広葉樹・照葉樹林からなるモザイク林
③標高の高い傾斜地で水を確保するために建設された総延長500kmの山腹水路と1800haもの棚田
④シイタケや釜炒り茶、和牛など農林畜産物の栽培・生産
⑤天孫降臨の地として伝わる神話や伝説です。
今回の世界農業遺産認定は、この地域の農家や住民のみなさんの励みになると共に、農林産物のブランド化など、さまざまな効果が期待されています。
自然と共生する農業
椎葉村で行われている焼畑は、今回、 認定された農林業の1つです。日本の伝統的な焼畑は、東南アジアの山間地等で行われている焼畑農業と比較して、1回の火入れ面積が比較的小規模に限った土地の火入れをパッチ状に行うこと、3〜4年間の栽培期間で輪作体系を設けること、長い休耕期間を必ず置き、森林を回復させることが大きな特徴です。火入れをパッチ状に行うことで、野生動植物への影響も小さく、豊かな森林が維持されます。
このような、森林と農林業の調和が図られた農法が現在も維持されていることが、世界的に重要なモデルとして評価され、世界農業遺産に認定されました。 日本の焼畑は、縄文時代の粗放的農業に端を発すると言われ、昭和25年頃までは日本各地で行われてきましたが、焼畑から米作への農業形態の転換や、戦後の拡大造林計画によるスギ・ヒノキ林への転換など、社会情勢の変化に伴い急速に衰退し、現在継続して行われているのは全国でも椎葉村だけ。
その椎葉村で焼畑を行っている椎葉勝さんに話を聞きました。
「現在、焼畑でソバ、ヒエ、小豆、大豆、平家カブ、平家大根を作っています。 山を焼いて4年ほど作物を栽培をした後は、25年から30年間その場所では畑作を行わず、次の場所へ移動するんです。今、焼畑を行っているのも、父親の代に焼いて以来の場所なんですよ。
新しい焼畑の1・2年目は焼けた臭いを嫌って猪も虫もやって来ないので、完全無農薬で作物ができるんですよ。それが3年目、4年目になると、雑草が増え、それに伴い虫もやって来ます。山が強くなって、再生していくんですね。そうするとまた次の場所へと移動するんですよ。
山を焼いて、その土地を利用し、その土地は元の山の姿へと戻っていく。そしたら違う場所を焼いて…。人間と自然が共存する循環がずっと続いているんです。」
焼畑を介して森をつくる
「焼畑は森の再生にもつながります。もともと50種くらいしかなかった植物が、焼いた跡には300種もの植物が生えてきます。専門家に話を聞いたところ、土の中に眠っていた種が目を覚ますらしいんですよ。そうやって、焼畑の跡は、元の山の姿に戻っていくんです。
自然に生えてくる植物に加えて、クリや桜、カエデ、ミズナラなど、動物のえさになる植物を植えるようにしています。そうすることで、10 年20年経った焼畑の跡は木の実がたくさんなる森となり、木の実を食べにイノシシやシカなど動物が
やって来るようになります。
その結果、シカやイノシシが本来の生息場所の山に戻ることで、餌を求めて人里にやってくることが少なくなっていくんですよ。」
伝統農業を継承していくために
「これからの課題は後継者づくりです。地元の小学校では30年くらい前から授業に焼畑の体験を取り入れているのですが、若い人たちが受け継がない限り、焼畑は途絶えてしまいますからね。
最近では焼畑をしようと、Iターンで村にやって来る若者もいます。世界農業遺産に認定されたことで注目が集まれば、そういった人が増えるのではないかと期待しています。そして昔のように、村のあちらこちらから焼畑の煙が上る。そんな風景が見られるようになればいいですね。」
収集したレア・データで発信 豊かな自然を未来へつなごう
日之影町立日之影小学校 校長
中村 憲一さん
県内外の河川の形態や二枚貝の生息状況を調べてデータ収集。問題提起や自然保護の啓発に役立てています。
日之影小学校は赴任3年目。豊かな自然と39人の全校生徒に囲まれ、校長として笑顔満開の日々を送る中村憲一さん。多忙な中でも時間を作っては川に足を運び、マツカサガイなどの二枚貝の生息調査を続けています。
生物の高校教員だったお父様に連れられ、川へオイカワ釣りに行っていたという中村さんの子供時代。豊かな自然が遊び場であり、学びの場でした。「魚や水生昆虫を観察したり、カッパのように水で遊んだり…(笑)。今も川が大好きなんです」と語る中村さんには、ある思いがあります。
川がきれいになったのに、なぜアユの漁獲量は少ないのか。“きれいな水”に安心して本質を見落としているのではないか。河跡湖、後背湿地、ワニドなど、稚魚の育つ環境保全の中で生き物を見て、そこから学び、河川開発に活かすべきではないか。そう訴え続けるために、日々の調査によるレアなデータが必要なのだそうです。
退職後は、「子どもたちが自由に魚を捕まえたりできる親水公園を作りたい。五ヶ瀬川の水がきれいな今とそうでない昔の漁獲量を調査・比較もしてみたいですね」と中村さん。自然、そして子どもたちとのふれあいの中で、さらなる夢と意欲にあふれています。
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