わが子への虐待など信じられないニュースが毎日のように耳に入ってきます。孤立死などの悲しいケースも一過性の事件ではありません。相談する人はいなかったのか、なぜそこまで周りが気付かなかったのかという疑間がどうしてもわいてきます。
都農町地域福祉計画を策定するために昨年秋に実施した町民アンケートや地区座談会。「どんな地域だったらいいと思うか」の質問に約7割の人が「支え合いがあるまち」を挙げています。また、「支え合う地域づくりのためにどんなことに取り組む必要があるか」の質問で一番多かった答えは、「住民同士の普段からのつきあい」(約6割)でした。しかし、一方で「悩みや不安を人に相談しない」という声が全体の約1割(男性では2割)ありました。
昨年3月11日の東日本大震災で日本人の意識が大きく変わりました。絆やつながりが見直されています。今号では、日々の生活の中で、人と人とがつながることの意味を考えます。
[社会問題の背景には「孤立」]
わが子への虐待など信じられないニュースが毎日のように耳に入ってきます。孤立死などの悲しいケースも一過性の事件ではありません。相談する人はいなかったのか、なぜそこまで周りが気付かなかったのかという疑間がどうしてもわいてきます。<br>都農町地域福祉計画を策定するために昨年秋に実施した町民アンケートや地区座談会。「どんな地域だったらいいと思うか」の質問に約7割の人が「支え合いがあるまち」を挙げています。また、「支え合う地域づくりのためにどんなことに取り組む必要があるか」の質問で一番多かった答えは、「住民同士の普段からのつきあい」(約6割)でした。しかし、一方で「悩みや不安を人に相談しない」という声が全体の約1割(男性では2割)ありました。<br>昨年3月11日の東日本大震災で日本人の意識が大きく変わりました。絆やつながりが見直されています。今号では、日々の生活の中で、人と人とがつながることの意味を考えます。
「都農ふれあいの居場所」オープン
12月3日、町民図書館近くに「都農ふれあいの居場所」がオープンしました。 ここは、「いつでも誰でも来ていい居場所」。気軽に立ち寄って、人と人がふれあうことができる集いの場です。県の口蹄疫復興対策運用型ファンド事業による助成で開設し、NPO法人みんなのくらしターミナル(初鹿野聡代表理事)とたわわ?ねっと(青木智美代表)が共働で運営しています。
平成22年に本町を襲った口蹄疫を獣医師という立場で経験し、さまざまな活動をしてきた青木淳一さんと妻の智美さん。その中で感じたのは、人とふれあい、絆を深めることの大切さでした。そのための活動がしたいと青木さん夫妻が中心となり、町内有志で、「たわわ?ねっと」を立ち上げ、活動の一環として、居場所オープンに向けて準備を進めました。
「『いつからどこで』という集まりの場ではなくて、『いつ来てもいい。い 帰ってもいい』という居場所があることが大切」と話す青木智美さん。河野理容として長年親しまれていた建物を借り、昨年秋から自分たちで改修してきました。壁を撤去し、窓を作り、床を張り替え…空き家だった建物が、いろいろな人たちの協力も得ながら、居心地のいい空間へと生まれ変わりました。
室内に入ると、三輪茂行さんが描くたくさんの町民の似顔絵が出迎えてくれます。手前にはいすに座れるスペース、奥には赤ちゃんや小さい子どもたちがのびのびと遊べる座敷もあります。子どもが一人で外に飛び出さないよう、ドアには鍵が取り付けてあります。初日のオープニングイベントでは、しゃくなげコーラス(河野員子代表)の美 しい歌声が居場所中に響き渡りました。河野孝徳さんたちによるギター演奏、河野景子さんによる読み聞かせなどたくさんの人たちが自分の得意分野を生かし居場所を盛り上げました。
社会問題の背景には「孤立」
震災で2万人弱の人たちが亡くなったり行方不明になっています。そして私たちが一番使った言葉が、「絆」。「絆が必要」だということはみんな分かっていました。 分かっているのです。ところが、この国では、自殺者が年間3万人を超え、亡く なって4日以上たってから発見される人が1万5千人以上もいます。全体で、4万5千人以上の人が社会から孤立して亡くなっているのです。
なのに、今まで 「絆」や「つながり」と言ってきたかどうか。震災のとき、日本人の行動を外国は高く評価しました。その絶対的な日本の強さの基本は、つながりであり、絆。助け 合う、支え合うということ。それが、現代社会では崩れ始めていることに日本人はこうなるまで(自殺者や孤立死の数がふくれあがるまで)気付いてこなかったのです。現代社会では、うつになると、「コミュニケーション力が足りない、本人が弱 い」、孤立死だと、「家族が面倒を見ない」など、何か起きると、すべて個人や家族の問題だとされてきました。子育て中も、地域の中でうまくバランスを取っていくことが大事ですが、それが出来なくなると虐待につながる。そういうことがすべ て個人の問題にされてきたのです。うつ、虐待、孤立死、高齢者の犯罪…これだけの現象が出てきているにもかかわらず、社会は大切なことに気付かなかったのです。原因をたどると、その背景は孤立に行きつきます。そしてこれは都会だけの問題ではなく、田舎でも起こっていることなのです。
便利さと引き換えに失った地域の機能
今は、一人でも生きられる社会。冷蔵庫に食料があり、インターネットや携帯電話で最新の情報が手に入り…と、一日誰とも話をしなくても日常生活が送れる世の中。それを世間では「便利」だといいます。今後、こういう傾向がもっと進むでしょう。今の子どもたちはここがスタート。インターネットやコンビニが当たり前の環境で育っていきます。
昔は、ほっといても、家族じゃない人がかかわる環境が地域の機能としてありました。その機能が、現代社会では無くなってきています。社会のつくり自体が、人がかかわりにくい、孤立しやすいものになっていることに私たちが気付かないといけません。目に見えないものだから、徐々に無くなっているのが分からない。しかし、日常で進行していることほど、意識しないと取り返しのつかないことになってしまいます。
生きがいを持って元気に生きるために
口蹄疫がきっかけで、つながっていた人との関係が切れたり、牛とずっと一緒に暮らしてきた人が牛がいなくなってしまって…と、都農町は、よそより孤立しやすい状況になっています。家族がいても孤立する人はするのです。 人には、「自分は社会とつながっている」という実感が必要なのです。昔はそれが縁側だったり、いろいろな居場所があったものです。それは、共同作業があったから。あったものが壊れたからこそ、今の時代・社会には、「いつでも居ていい場所、さみしいときに話せる場所」、そういう場所を意識して作る必要があるのです。
携帯、ネット、コンビニ…を悪者にするのではなく、そういうものをひっくるめて、今の時代に合ったふれあいのある社会を作っていく必要があるのです。その一つの切り口・入り口が居場所。人が生きがいを持って元気に生きていくには、人とふれあうことが絶対条件。人は、人と会うことで元気になります。一人で考えてるだけじゃだめ。人と会って、気持ちを伝えることが大切なのです。
人の力をつながりで生かす
「茶の間には、さまざまな人たちが来られますよ」と話すのは、清武町の居場 所、「みんなの茶の間」スタッフの原田聡美さん。「例えば、障害者の親たちのグループがミーティングに使って、先輩ママがアドバイスをする姿が見られます。その場で解決できないことも、相談先を紹介するなど、次につなげることができます」。 他にも、定年になった元音楽教師が歌やバイオリンを教える「うたごえ喫茶」、子育て中のお母さんのための「手芸カフェ」、お酒を飲みながらの「50歳以上のしゃべりBAR」、お菓子作りや美化活動を行う夏休みの寺子屋…などさまざまな人たちが自分たちの居場所として利用しているそうです。「地域には、先生やお宝がいっばい。そういう人やものを、みんなの知恵を集めながら活用していくと盛り上がると思いますよ」と教えてくれました。
助け合いで人がつながる
「困ったときに行政に泣きつくのではなく、助け合いの仲間作りをしたい」と話すのは、ふれあいの居場所で勉強会の講師を務めた、NPO法人たすけあい遠州(静岡県袋井市)の稲葉ゆり子さん。ここでは、「周」という時間通貨が活躍しているのだそうです。 時間通貨とは、時間を単位とした地域通過の一種で、地域住民が「してほしいこと」や「できること」を交換し合う助け合いの仕組みです。稲葉さんによると、「何かを手伝ってもらったときに、「『うれしい気持ち』を「周」という形にして『ありがとう』の言葉と一緒に渡す」というものなのだそうです。「周」があることで、 頼んだり頼まれたりしやすい雰囲気になっているのだとか。そうしているうちに、助け合いで人がつながり、情や気付きが生まれてくるのだそうです。
行く場所がある、人と話す、笑う
中町には、ふれあいの居場所の先輩にあたる場所があります。元々人が集まっていた木工所が無くなったために、黒木昭男さん(85歳 中町)たちが10年以上前に廃材を使って自分たちで作った小屋が「とんほ喫茶」。毎日4?5人が集まってコーヒーを飲みながらいろいろな話をしています。昭男さんは昭和元年生まれ。物忘れ以外は健康に問題なし。見た目も若く85歳にはとても見えません。人を笑わせるのが得意な三輪茂行さん(81歳都農組)はムードメーカー。自分たちのことを、「ひょっとしたらもうボケちょるのかもしれん」と明るく笑います。「笑うことは大事やとよ」。皆さん若いだけに、言葉に説得力があります。「ここに来る人はみんなピンピンコロリで死んでいくよー寝込む人はおらんがね」と声をそろえる皆さん。「毎日行く場所があって、人と話して、そういうことがやっぱいいんやろね」。自分たちにとってとんほ喫茶の役割は「ボケ防止」だといいます。「毎日が楽しいよ。好きな絵を描いているときが一番楽しいかな」と満面の笑みで話す茂行さん。行く場所があるということ。そして、人と話し、笑うということは、人生を楽しく豊かにしてくれる秘けつなのかもしれません。
相談がなくても行ける場所を
口蹄疫から完全に復興しているとはいえないこの地域。特に、高齢者は「することがなく、テレビ番をしている」という声を聞きます。牛が生きがいだったという人たちには漠然とした不安や心配事があります。そういう人たちを一人にさせないことが大切。相談事が無くても行ける場所、話をするだけで不安が減り、楽になれる場所の必要性を感じました。
そして、震災。災害の程度は違いますが、ふるさとを立て直そうという思いは同じはずです。自分たちが出来ることをと、すぐに「疎開プロジェクト」を立ち上げました。もし、被災者が来られたときにも、話せる場が必要だと思い、「ふれあいの居場所」オープンに向けて動き始めました。子育て、高齢者の見守りなどはもちろん、地域の拠点としてまちづくりにもつなげたい、という思いがありました。
みんなそれぞれの役割
私自身、結婚後、知り合いもいない都農町での生活がスタートしました。「誰々さんの娘さん?」など地元ということでつながる会話を聞いて「うらやましい。いいな」と思っていたのです。地域でつながりがあれば、小さい子どもも見てもらえるし、年配の人に、「そんげやかましく言わんでいっちゃがー」などとおおらかに言ってもらえることで母親として安心したりもするじゃないですか。人を知ると、生活が楽しくなるものです。みんなそれぞれに役割があります。高齢者なら若い人に「あんげよ、こんげよ」と教えたり。小さい子どもはいるだけでみんなを笑顔にします。「居場所」を始めて数週間ですが、たくさんの人たちが助けてくれます。そして、「ここに来てよかった?」と帰っていく人を見ると、本当にうれしくなります。ふれあいって大切だなとしみじみ思います。「一人で食べるご飯はさみしい」…ならば、ここで一緒にお昼を食べたらどうか。「昔ながらの料理を若い人に教えたい」「習いたい」、「肩が痛いから体操せんといかん」「私は体操を教えている」…そういう人たち同士をうまくマッチングしたら広がりができます。ここに来る人たちの「これがしたい」が自然な流れでつながっていくといいなと思います。
心の元気がつながる場所に
ただ人とふれあうだけでこんなにも心が元気になるんだということを、ここに来てくれた人たちが感じられるような場所にしたいと思っています。そして、心が元気になったその人の周りに自然とふれあいの輪が広がり、また次の人の心を元気にしていってくれたらいいなあと思っています。居場所に限らず、人と人がふれあい、つながりを感じられるような活動を続けていきたいです。
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